大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(あ)1591号 決定 1978年10月20日

本籍

神戸市灘区篠原南町四丁目一二番地

住居

大阪市北区兎我野町九六番地 泉州ビル一三号室

会社役員

西川芳夫

大正一二年五月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五二年七月二五日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大槻龍馬の上告趣意は、憲法二九条一項違反をいう点もあるが、その実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 服部高顕 裁判官 高辻正己 裁判官 環昌一)

○ 昭和五二年(あ)第一五九一号

被告人 西川芳夫

弁護人大槻龍馬の上告趣意(昭和五二年一一月一二日付)

第一点、原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認ならびに法令の違反があり、破棄しなければ著しく正義に反する。

一、原判決は、弁護人の

被告人が借入金の利息を正確に算出してこれをそのまま土地の原価に算入する取り扱いをせず、借入金利息を考慮しての土地の評価増(実質は原価算入)を行ったからといって、直ちにこれを全面的に否定したのは、原価に関する法令の解釈を誤り、事実を誤認したものであり、右土地の過大な評価額は一、六五七万二、七二六円に過ぎない。

かりにそうでないとしても、被告人は該部分につき逋脱の犯意を欠くものであり、この点第一審判決は事実を誤認したものである

との控訴趣意に対し、

しかしながら、第一審判決における借入金利息の原価算入に関する見解ならびに被告人の行った土地の評価増に関する事実の認定は、いずれも首肯しうるものであり、この点に関し第一審判決には原価に関する法令の解釈を誤り、事実を誤認した違法は存しない。すなわち、所得税法上たな卸資産の取得価額については同法施行令一〇三条に規定があるが、借入金利息を原価に算入すべきかどうかについては直接の規定がなく、解釈に委ねられているところ、法人税法二二条四項にかんがみ「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うべきものと解するのが相当である。つまり、当該企業が合理的な方法で借入金利息を原価に算入する会計処理を実際に行っている場合には、税法上もこれを容認すべきであり、第一審判決の見解も右と同様であると考えられる。しかるに、これを本件についてみると、昭和三九年ないし同四一年度の不動産部門の各元帳(当庁昭和四九年押三三〇号の一八の二、二〇、二一)によると被告人は、昭和三九年三月五日付で萱島の土地から牧野の土地へ評価益二、〇〇〇万円を振替計上し、同年一二月二九日付で牧野の土地につきさらに六、五〇〇万円の評価益を計上し、翌四〇年一二月二九日付で同土地につきさらに一億〇、九三〇万円の評価益を追加計上し、翌四一年一二月二九日付同土地につき三、〇〇〇万円の評価減をしてこれを高柳の土地に振替計上するとともに、右の昭和四〇年一二月二九日付の評価益計上額一億〇、九三〇万円を五、四三〇万円に減額訂正し、さらに向日町の土地につき一、〇〇〇万円の評価益を追加計上し(結局、牧野の土地については昭和四一年末までに一億〇、九三〇万円の評価益を計上したことになる)、その他、昭和四一年一二月二九日付で新たに春日、朝日ケ丘、野崎飛地および高柳の土地につき別途評価替として九、三〇〇万円の評価益を計上したことが認められ、借入金利息の原価算入を行った形跡はまったく認められない。真実借入金利息の原価算入をする意図で評価益を計上したのであれば、一定の土地につき利息相当額を一貫して計上する筈であり、右のように一部の土地についてのみ評価益を計上し、しかも、これを別の土地に振り替える等の会計処理をする筈がなく、また、前記昭和四一年度元帳等関係証拠によると、同年分修正損益計算書に支払利息の公表金額として記載されているとおり、同年分の借入金利息は全額支払利息として経費に計上され、しかも、架空借入金に対する架空支払利息まで計上されていることが認められるのであって(なお、昭和三九年分および同四〇年分の借入金利息についても、右四一年分の借入金利息に関する事実および前記昭和三九年度および同四〇年度の各元帳の支払利息勘定の記載から昭和四一年分と同様全額支払利息として経費に計上されていたものと推測される)、これらの点に、被告人の検察官に対する昭和四三年七月五日付供述調書(記録三、一七五丁以下の分、一二項)および水野隆晴の検察官に対する同月一八日付供述調書(当審で取り調べた分)を併せ考えると、被告人の行った土地評価増は、第一審判決も説示するとおり、要するに、架空支払利息を計上して資金を公表外に落としていたこと等の関係から、将来の利益を減殺するとともに年間所得を五〇〇万円程度に計上するという目的で、所得計算上の操作としてなされていたものと認めざるを得ない。したがって被告人が借入金利息を原価に算入する会計処理をしていたとはとうていいえず、右の土地評価増が全部否認されるのもやむをえないことといわなければならない。なお、この点に関する逋脱の犯意についても、右土地評価増の帳簿上の操作は、すべて被告人の指示に基づき経理担当の水野隆晴が実行したものであることが証拠上明らかであるから、被告人が右の犯意を欠くいわれはないというべきである。その他、所論にかんがみ調査してみても、第一審判決の関係部分には、原価に関する法令の解釈を誤り、事実を誤認した違法はなく、論旨には理由がない。

として前記控訴趣意を排斥した。

二、原判決の右判断は、本件における土地の評価増が、たな卸資産の取得のために要した借入金の利子を考慮してなされたものであることの事実関係の実態を誤認し、もしくは原価に関する法令の解釈を誤り、その結果原価を過少に認定し被告人に対し過大の納税義務を課し、被告人の財産権(憲法二九条一項)を侵害するものである。以下その理由を述べる。

1 一般に逋脱所得額を算出するために、修正損益計算書もしくは修正貸借対照表が作成されるが、これらはいわゆる公表上の各勘定科目について納税者が通常経済的合理的に行動したとすれば、とるべき筈の行為計算をとらないで、異常不自然な行為計算をとることにより不当に租税を回避軽減したこととなっている場合にこのような行為計算を否認して、経済的合理的に行動したとすれば通常とったであろうと認められる行為計算に従って各修正額がはじき出されるわけである。

法人税法二二条四項が、各事業年度の所得の金額の計算について、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」と規定しているのは、右と同趣旨のものと解せられ、所得税法の解釈においてもこの基本は異なるところがないものと考える。

従って納税者の会計処理が誤っている場合は、それを修正することによって犯則所得が増加する場合のみならず、修正することによって犯則所得が減少するような場合であっても、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(経済的合理的に行動したとすれば、通常とったであろうと認められる行為計算)に従って計算されなければならない筈である。

右のことは、税法の目的が財政需要を充足するがための課税において、課税、非課税の限界を明確にすることによって国民の財産権を保障することにある点に鑑みても当然である。

2 本件において、被告人は自己資金及び他からの借入金をたな卸資産取得のために使用し、自己資金に対しては他からの借入金利息を支払ったが如く仮装していたため、本来の他からの借入金に対する支払利息と区別せず、損益計算書では一括して支払利息として支出の部に計上していたのである。

一方、右損益計算書では収入の部に「商品売買益」なる勘定科目を設けているが、これには「貸方」の売上金額と「借方」の仲介料・側溝工事代・電気工事代・通話料・売却損等の合計との差額が計上されていることが符二一号・符二〇号・符一八号によって認められる。

しかも、右証拠物によれば、たな卸資産取得のために要した支払利息を借方に計上していないために、事業年度末において貸方に多額の評価増を一挙に計上して、商品売買益なる勘定科目内において調整を加えているのである。

3 所得税基本通達四七-二一によれば、「たな卸資産取得のために要した借入金の利子は、たな卸資産の取得価格に算入しないことができる」としている。(所得税法基本通達四七-二一――別添一)

土地の造成・販売の事業においては、事業開始後造成が完了するまでの事業年度は原則として欠損が続き、販売開始の事業年度に入って初めて利益が生ずるというのがこの種事業の特色であるが、造成が完了するまでの事業年度において支払われたたな卸資産取得のために要した借入金の利子をいわゆる資本的支出として原価に算入することによって、連続する欠損を少額に押え且つ販売開始後の事業年度における利益を調整できるようにすることは、健全な企業会計処理上当然のことといわねばならない。

そうして前記通達も亦、その趣旨に立脚したものと解せられるのである。

4 ところが被告人は、前記のごとくたな卸資産取得のために要した借入金以外の自己資金をも借入金と仮装していたためにこれら借入金に対する支払利息が多額となり、しかも仮装のため記帳上分割できないことから、商品売買益勘定においてたな卸資産の取得価格に算入せず、事業年度末に評価増を計上してこれを調整するとともに損益計算書の支出の部に右借入金利息(仮装分も含む)を計上しているのである。

本件における修正損益計算書では、前記評価増及び架空借入金利息の計算を否認していて、右否認は至極当然と思われるが、他面評価増については起訴対象年度及びその前年度である昭和四〇年度分についても遡及して否認したうえ、これに基いて起訴対象年度の商品原価を算出しているために右商品原価が不当に低いものとなり、その結果起訴対象年度の商品売買益が不当に高いものとして算出されるという不合理を出来しているのである。

被告人のなした会計処理が正当でないとしても、もしたな卸商品の評価増が否認されるのであれば、通常経済的合理的な経理処理としては、当然たな卸資産取得のために要した正当借入金をたな卸資産の原価に算入したうえでの商品売買益の計算をしていた筈であり、これこそ健全な企業会計処理に叶うものといわなければならない。

原判決は、

昭和四一年分の借入金利息は、全額支払利息として経費に計上され、しかも架空借入金に対する架空支払利息まで計上されていることが認められる。

ことを控訴趣意排斥のひとつの理由として掲げているが、控訴趣意補充書でも述べたとおり、昭和四〇年分の土地評価増の一方的否認によって昭和四一年度の商品原価が実体よりも低額となり、ひいては商品売買益が不当に多くなることを主張するものであって、原判決は右主張を理解したうえで判断をして頂いたものかどうか疑いを抱く次第である。

5 被告人が、昭和四四年一月一八日北税務署長より受けた更正処分の内容が、

昭和四〇年度

更正前の所得額 五、〇三五、二四七円

更正後の所得額 △五四、三九〇、六八一円

増減差額 △五九、四二五、九二八円

昭和四一年度

更正前の所得額 五、一五六、三三〇円

更正後の所得額 五九、九二六、〇二〇円

増減差額 五四、七六九、六九〇円

とされ、およそ健全な企業会計処理と隔絶した算出結果が示されていることは、原価を過少に認めたことが大きな原因となっているもので、第一審以来指摘して来たところである。

原判決は、

土地評価増が、全部否認されるのもやむを得ないことといわなければならない。

と判示するが、国家が企業の健全経営を永続せしめ、長期に亘って安定した税収を確保するうえにおいて、ある事業年度において五、四〇〇万円余の損金が発生し、その翌事業年には逆に五、九〇〇万円余の益金が発生するような所得計算方法をとり、その年度に多額の課税をなすがごとき会計処理の置き換えは、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ったものとは言い難く、ましてこのことが刑の量定に影響を及ぼす本件においては、法律家の善処によって救済されるべき問題であって、「やむを得ない」として片附けられるべきではない。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり、破棄しなければ著しく正義に反する。

一、原判決は、弁護人の

第一審判決は、本店の営業経費につき、昭和四一年一一月分、同四二年一月ないし五月分の本店関係月次決算報告書によると、昭和四二年三月分の営業経費が他の月に比し異常に多くなっているが、それは、被告人が従業員に対し三月、六月、九月、一二月の年四回の賞与月に裏賞与を支給していたためでもあることが窮われ、資料の存しない他の賞与月においても、裏賞与等非賞与月に比し相当多額の支出があった疑いがあるので、賞与月に共通する非賞与月より多い営業経費を一〇〇万円と認め、年間の営業経費を一六〇〇万円と推認するとしたが、右の昭和四二年三月分の営業経費のうち他の月より多い分はすべて裏賞与月に共通のものであるから、同月を組み入れた同年一月ないし三月分と三月ないし五月分の各一箇月平均の営業経費約一五〇万円をもって昭和四一年分の平均月間営業経費と推認すべく、したがって、同年分の年間営業経費は一、八〇〇万円と認定すべきである。第一審判決は右の昭和四二年三月分の営業経費中にはボーリング場関係交際費等同月に特殊のものが含まれているとし、その理由として被告人の捜査段階における供述を挙げているが、ボーリング場関係交際費は公表帳簿分から支出しており、右月次決算報告書の分からはまったく支出していない、もし第一審のいうように右月次決算報告書の分から支出したとすれば、同報告書において、ボーリング場関係の事業を始めた昭和四二年一月以降の非賞与月である同年一月、二月、四月、五月の各営業経費が、いまだボーリング場関係の事業を始めていなかった昭和四一年中の非賞与月である同年一一月の営業経費よりいずれも少額であることを合理的に説明することができない。さらに、第一審判決は弁護人の主張する不動産金融の仲介料五〇万円、不動産金融の物件調査のための旅費等の経費一二〇万円、簿外交際費三六〇万円、合計五三〇万円の営業経費を否認したが、該経費は被告人の第一審公判廷における供述および第一審証人水野隆晴の供述により肯認しうるものであり、以上の点で第一審判決には判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある。

との控訴趣意に対し、

よって、所論にかんがみ関係各証拠を精査して検討するに、押収してある昭和四一年一一月および同四二年一月ないし五月分の各振替伝票(前同号の四三の一、一の一、二の一、三の一、四の一、五の三)および昭和四二年一月ないし五月分の各元帳(前同号の六の三、七の三、八の四、九の四、一〇の三)ならびに被告人の検察官に対する昭和四三年七月五日付(記録三、一七五丁以下の分、一四項)、同月七日付(記録三、二五三丁以下の分)、同月一二日付(記録三、三四九丁以下の分、四項)、同月一四日付(一項)各供述調書によると、昭和四一年一一月および同四二年一月ないし五月分の本店の営業経費(簿外経費)は、もれなくありのまま右振替伝票および元帳(いずれも裏帳簿)に記載されており、その主要費目別明細は別紙(一)の明細表のとおりであることが認められる。右明細によると、昭和四二年三月に従業員に対して支給された簿外賞与はせいぜい一七万四、〇〇〇円程度に過ぎず、同月分の経費が他の月に比し異常に多くなっているのは、簿外賞与の支給に原因があるわけではなく、社長経費・交際費や市県民税等の支出によるものであることが認められる。押収してある給与関係書類(前同号の一四)を精査しても、右の程度以上に簿外賞与が支給された形跡は認められない。さらに、同月分の元帳(前同号の八の四)によると、同月一日社長経費として六〇万円が、同月八日社長交際費として七七万円がそれぞれ支出されていることが認められ、これが同月分の経費が他の月より異常に多いことの主たる原因となっていると考えられるのであるが、その金額および支出時期ならびに被告人の検察官に対する昭和四三年七月一二日付供述調書(記録三、三四九丁以下の分、三項)の記載内容に徴すると、右の支出はそれがボーリング場関係の交際費であるかどうかはともかくとしても、なんらかの特殊な支出であり、賞与月、非賞与月の別を問わず、他の月に共通な支出ではないと推認すべきものと考えられる。したがって、右三月分の経費額をそのまま他の賞与月の経費額ないし年間経費額の推計資料とするのは相当でない。そして、右三月分の経費額から右の一三七万円および市県民税、確定申告税額(稲田収二名義の分の一部と考えられる)を差し引いた額と昭和四一年一一月および同四二年一月の各経費額とによって年間経費額を推計すると、別紙(二)のとおりとなり(片山保人に対する歩合給支給額は、被告人の検察官に対する昭和四三年八月一三日付供述調書によりその年間実額が認められるので、それによる)多く見ても一、二〇〇万円を超えることはないと認められる。第一審および当審の証人水野隆晴の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。次に、不動産金融の仲介料、同金融の物件調査のための旅費等の経費および簿外交際費については、被告人の第一審公判廷における供述も、結局は、右のような費目の支出が若干あり、その中には一部記帳されなかった分もあるというに過ぎず、他に右支出を直接認定しうる証拠はない。そして、被告人の検察官に対する昭和四三年七月五日付(記録三、一七五丁以下の分、一四項)、同月七日付(記録三、二五三丁以下の分)、同月一二日付(記録三、三四九丁以下の分、四項)同月一四日付(一項)各供述調書ならびに水野隆晴の検察官に対する同月三日付供述調書によると、本店の営業経費等すべての簿外経費は、もれなく、ありのまま本店部門の振替伝票および元帳に記載されていたこと、右本店部門の勘定はいっさい裏勘定とし、その帳簿はすべて裏帳簿としていたから、それ以外にさらに裏の裏ともいうべき勘定をもうける必要はなかったことが認められ、かつ、公表帳簿たる不動産部門の昭和四一年度元帳(前同号の一八の二)によると、同部門においても毎月相当額の使途不明の社長交際費が支出されていることが認められる。したがって、前記の被告人の第一審公判廷における供述中、弁護人主張のような費目の支出で記帳されなかった分があるという部分は措信し難い。(ちなみに、本店部門および不動産部門の帳簿には、被告人の医療費やクリーニング代の類の支出に至るまで記帳されている)してみると、かりに弁護人主張のような費目の支出があったとしても、それは、前記のとおり本店部門の振替伝票および元帳の残存分によって推計した営業経費ないしは前記不動産部門の元帳によって認められる営業経費の中に含まれているものというべく、右各営業経費の外に弁護人主張のような費目の支出があったことは否定せざるをえない。結局、昭和四一年分の本店営業経費は一、二〇〇万円と認定するのが相当であり、第一審判決はこれを四〇〇万円過大に認定したものというべさである。

として前記控訴趣意を排斥した。

二、原判決の右の判断は、推定計算の原理を誤り、昭和四一年分の本店営業経費一、八〇〇万円が相当であるとする控訴趣意を排斥したばかりか、第一審が認定した一、六〇〇万円をさらに被告人に不利益に一、二〇〇万円と変更して事実を誤認したものであって、その結果被告人に対し過大の納税義務を課し、被告人の財産権(憲法二九条一項)を侵害するものである。

以下その理由を述べる。

1 まず本件における昭和四一年分の本店営業経費は、実額計算によるものではなくて推定計算によるものである。

およそ推定計算においては、合理性の存在が必須の要件であって、その合理性とは何人も実額に近いものであると推認できるものでなければならない。

そこで合理的な推定計算を確保するためには、豊富な試料(資料)が必要であるとともに、その試料が母集団全体を部分的に表象するものでなくてはならないことが肝要である。

原判決は、第一審判決と異なりこの点についての考察を全く欠いたものと言わざるを得ない。

2 即ち本件において、推計学における母集団に相当するものは昭和四一年分の本店営業経費であるが、これを推定せんとする試料は、

(イ) 昭和四一年一一月分

(ロ) 昭和四二年一月分ないし五月分

であることは原判決も認めるところであって、母集団の中に包含される試料は僅かに(イ)の昭和四一年一一月分に過ぎないのである。

従って昭和四一年中の営業経費と、右(イ)及び(ロ)の試料の存する期間の営業経費が等質性を有すると推定されないかぎり、原判決のような推定計算そのままの姿で合理性を認めることは到底許されないのである。

3 ところが、昭和四一年中と昭和四二年一月から五月までの期間とを比べると、本店営業経費の間に次のような異常な変化が見受けられる。

(一) 東京営業所関係

上原和夫が所長であった東京営業所は、昭和四一年一〇月に閉鎖されていることは同人の供述調書によって明らかである。

而して同営業所における昭和四一年一月から同年一〇月までの間の山崎外一名の経理担当者に支給した給料・賞与・出張費及び事務通信費等は、本店営業経費から支出していたのであるが、前記(イ)・(ロ)の試料の期間は既に同営業所が閉鎖されていて支出がない。

(二) 日東商行関係

被告人が高春根に行わせていた不動産金融の日東商行は、昭和四一年一一月に閉鎖されていることは同人の供述調書によって明らかである。

而して同人に対して支給されていた賞与・交通費等は、本店営業経費から支出されていたのであるが、前記(ロ)の試料の期間は支出がない。

(三) 法人設立関係

被告人は、昭和四二年三月株式会社日商土地開発を設立してその代表取締役となり、その後不動産金融の業務を廃止した。

従ってその後は、この事業面における経費は不必要となっており、前記(ロ)の試料のうち三月ないし五月分は、右事業を終始行っていた昭和四一年中に比べ等質性を欠くものである。

4 以上述べたところにより明らかなごとく、原判決の推定計算における試料は母集団を推計するためには不十分なものであって、試料に表われた数字だけを基礎として推計をなすときは実体とかけ離れた結果となることは火を見るよりも明らかである。

5 前記日東商行関係の影響が全くないと考えられ、しかも母集団の中に包含される試料である昭和四一年一一月分は原判決別紙(二)の計算表によれば、

一、二三八、三四九円

であって、右には東京営業所関係は加わっていないが、これによって推計することは、原判決の推計よりも一層合理性があると思われるのである。

その結果は、

1,238,349円×12=14,860,188円

であって、第一審判決はこれらの諸点を高察のうえ、年額一、六〇〇万円と認定されたものと思われるのに、原判決は突如右認定を破棄して、「多く見ても一、二〇〇万円を超えることはないと認められる」として敢えてこれを減額し、課税当局ひいては検察官の主張をそのまま認容された理由は、合理性を欠き到底腑におちないところである。

しかも原判決の推定計算には、推定計算に不可欠といわれる仮説の検定がなされていないのである。

弁護人の控訴趣意による月間一五〇万円・年間一、八〇〇万円の主張は、不動産金融の仲介料・物件調査のための旅費等及び交際費等が昭和四一年中に存した旨の水野隆晴の証言及び被告人の供述に基くものであって、これらの供述が架空のものとは考えられないと思料する次第である。

第三点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認ならびに法令の違反があり、破棄しなければ著しく正義に反する。

一、原判決は、弁護人の

第一審判決は、河内長野市所在の豚舎およびその設備について昭和四一年分の減価償却を行うに当たり、その償却前評価額を四〇〇万円と認定し、減価償却費を二三万七、六〇〇円と算定したが、右償却前評価額は二、一五五万円と認定すべきであり、減価償却費は一三五万二、〇〇〇円と算定すべきであるから、第一審判決はこの点事実を誤認したものである

との控訴趣意に対し、

よって調査するに、右豚舎およびその設備の減価償却前評価額につき、弁護人が二、一五五万円と主張する直接の根拠は、脇田俊幸作成の日商養豚場豚房飼料処理場宿舎新築および設備工事各見積調書の記載にあるが、同見積調書および豚舎設計復元図二通ならびに右脇田の第一審における証言によると、右見積調書は、右脇田が昭和四七年五月頃水野隆晴から豚舎等の図面を渡され、これと水野の説明とによって復元図を作成したものであることが認められるところ、右脇田の証言および当審において取り調べた豚舎等の図面四通によって明らかなとおり、水野が脇田に渡した該図面はスケッチ程度の簡単なものであるうえ、同図面がいつ何のために誰によって作成されたかについては遂になんらの立証もされなかったこと、水野の第一審および当審における証言によっても窮われるように、同人は養豚場関係の経理には関与していたが、豚舎等の工事や現場の業務には直接関与していたわけではないから、同人が脇田に対し豚舎等の構造や材料についてどの程度正確に説明しえたかははなはだ疑わしいこと等の諸点に徴すると、右見積調書の証拠価値は決して高いとはいえず、後記のとおり他にこの点に関する有力な証拠が存する以上、この見積調書を採用しなくてもなんら不合理とはいえない。また、豚舎等の工事費が二、〇〇〇万円ぐらいであったという第一審における証人水野隆晴や被告人の供述および当審における証人中川金次の供述も、格別資料に基づくものではなく、後掲証拠に照らし措信できない。

ところで、押収してある前同号の一五の三の手帳には、「(固)豚舎(昭和四〇年)四月二二日前畠から中川へ七三万五九四八円」なる記載および以後同年中豚舎につき種々の工事をしその代金を支出した旨の記載があり、前同号の一五の五の手帳には、「豚舎勘定四〇年一二月二九日現在二九四万四、六三五円」なる記載および昭和四一年一月六日防寒設備として二五万円を支出した旨の記載があり、さらに昭和四一年一一月末、同四二年一月末、二月末、三月末、四月末、五月末の各決算報告書(前同号の四〇、一一、一二の六、一三の三、一三の二)の本店部門固定資産勘定には、「河内長野豚舎」として、右の順に「三一四万六、九二九円」「三〇七万九、一七三円」「三〇二万四、三九一円」「二九六万〇、八七〇円」「二九〇万七、〇八六円」「二八八万五、八八六円」なる記載があり、これらを右各手帳の養豚関係の他の記載部分ならびに昭和四一年一一月および同四二年一月ないし五月の各元帳(前同号の三八の一、六の四、七の四、八の三、九の三、一〇の四)の関係部分と併せ考えると、右各金額は豚舎およびその設備の各時点における評価額を意味し、昭和四一年一一月末以降の金額の差は被告人が独自の方法でなした減価償却によって生じたものと推認され、また、右各決算報告書および元帳の仮払金勘定をみると、そのいずれにも「中川、豚舎固定設備」あるいは「中川、河内長野豚舎に関し」として「一〇三万六、九九八円」なる記載があり、右は仮払金として支出されているが、その計上期間等に徴し、工事完了後もなんらかの理由により固定資産勘定への振り替えがなされなかった疑いがあるので、減価償却に関しては豚舎等の取得価額に算入するのが相当であると思料されるところ、以上の諸点を勘案すると、右豚舎等の昭和四一年分減価償却前の評価額は五〇〇万円と認定するのが相当である。そこで、第一審判決と同じく定額法により耐用年数を一五年として計算すると、減価償却費は二九万七、〇〇〇円となり第一審判決の認定したそれを五万九、四〇〇円上廻ることとなる。

として減価償却前の評価額二、一五五万円の主張のうち、僅かに五〇〇万円を認容してその余を排斥した。

二、原判決の右の判示は、刑事訴訟法三三六条の立証責任に関する規定に反し、かつ経験法則を無視しもって事実を誤認したものであって、その結果被告人に対し過大の納税義務を課し、被告人の財産権(憲法二九条一項)を侵害するものである。

以下その理由を述べる。

1 被告人が河内長野市内において豚舎を所有し、中川金次を使用して養豚業を営んでいたことは、国税査察官も熟知するところである。

ところで、所得税関係通達(昭二七直所一-一二<23>)は、

規則第十条第一項の規定による減価償却額、規則第十条の三の規定による減価の価額、規則第十条の四の規定による電気通信施設を設けるために要した費用の償却、細則第八条の規定による減価償却に代る減価の価額の計算については、次の諸点に留意する。

(一) これらの規定による償却額、減価の価額等はこれらの規定によりその年分の必要な経費に算入すべきものであるから、たとえ納税義務者がこれらの額を計上していない場合においても、これらの額はその年分の必要な経費に算入すべきものとする。

(二) 省略

と規定しているので、本件における前記豚舎の減価償却はいわゆる強制償却の場合に該当し、被告人の主張立証を待たないで職権をもって調査されなければならないのである。(昭二七直所一-一二23、別添二)然るに本件では、調査段階において河上他代査察官が現地を見分しており、検察官冒頭陳述書添付の脱税額計算書説明資料付表別紙23においても、河内長野物件の各年末金額現在高として

昭和三八年一二月三一日 三七、八〇〇、〇〇〇円

同 三九年一二月三一日 六二、三五七、一五〇円

同 四〇年一二月三一日 七二、七〇四、七五〇円

同 四一年一二月三一日 七二、七四四、七五〇円

二、七〇〇、〇〇〇円(買増分)

(別紙23、別添三)

(符号一一不動産の部、別添四)

の記載が存するのに拘らず、本件に関する更正処分に取上げられたこともなく、検察官の主張の中にも取上げられていなかったのである。

※ 符号一一(決算書類綴)によれば、不動産の部に「河内長野山林二、八〇〇、〇〇〇円」「河内長野に関し七二、七四四、七五〇円」の記載がある。

而して第一審において、弁護人より初めて主張したものであるのに、原判決は脇田俊幸作成の「日商養豚場豚房飼料処理場宿舎新築及び設備工事各見積調書」及び「豚舎設計復元図二通」の基本となった図面四通が、スケッチ程度の簡単なものであってそれがいつ何のために誰によって作成されたかについては遂になんらの立証もされなかったとして見積調書を採用せず、また約二、〇〇〇万円の工事費ならびに豚舎設計復元図の正当性を認めた原審証人中川金次の供述をも排斥し、押収品中の手帳より具体的説明の記載のない金額を拾い出して独断的に減価償却前の評価額は五〇〇万円相当であると認定しているのである。

右は全く主張ならびに立証の責任を取り違えたものであって弁護人は、前記見積調書・豚舎設計復元図及び直接的証拠ともいうべき証人中川金次の右供述が当然採用さるべきでありもしこれに疑問があるならば原審は須らく職権によって現地を確認した河上他代査察官を取調べ、復元図と現物との異同を確かめるなり、検察官にその立証を促すべきであると考えていたのである。

従って、もし中川金次の証言ならびに復元図がとり上げられないで漠然たる手帳の記載が信用されるというのであれば、弁護人として河上査察官の証人尋問の請求をすべきであったと甚だ残念に思っている次第である。

この点において原判決は、立証責任に関する法令に違反した訴訟手続をとったものであるとともに、審理不徹底にして不尽の譏りを免れない。

2 さらに原判決には、次のような疑問が挿まれる。

まず別紙13の固定資産税に関する記載をみると、

河内長野山林課税標準額

岡崎商事(株)名義分

昭和三九年 一七四、九〇〇円

同 四〇年 一七四、九〇〇円

同 四一年 一九二、四〇〇円

滝本忠夫名義分

昭和三九年 一二四、九〇〇円

同 四〇年 一二四、九〇〇円

同 四一年 一三七、三〇〇円

杉本明夫名義分

昭和四〇年 一二、九五〇円

同 四一年 一四、一〇〇円

となっている。(別紙13、別添五)

右と前記別紙23の記載を比較したとき、23における昭和三九年一二月三一日の六二、三五七、一五〇円と翌四〇年一二月三一日の七二、七〇四、七五〇円の差額約一、〇〇〇万円余は何によって発生したものか不明であって、この点においても原判決は審理を尽くしておらず、これらの審理不尽の結果事実誤認に陥ったものというべきである。

3 なお原審証人中川金次は、豚の頭数は最高時約五〇〇頭であったと供述(原判決は、中川金次の飼育頭数に関する供述の当否については判断を避けている)しているので、これだけを収容し得る設備が僅か五〇〇万円という原判決の判断は余りにも経験法則を無視した非常識な判断といわねばならない。

符号8-4の中川%によれば、飼料代として

三月一〇日 二一五、五〇〇円

三月一六日 一六四、五〇〇円

三月二五日 一三一、二五〇円

合計 五一一、二五〇円

が支払われていることが明らかである。

そうすると一年間の飼料代は六、一三五、〇〇〇円と推定される。

ところで仔豚の仕入代金は、、

三月一一日 三五頭 二八〇、〇〇〇円

で、一頭当り八、〇〇〇円であり、、親豚の売却代金は、

三月一日 一二頭 一九一、五八〇円

三月九日 一二頭 一九九、八〇〇円

三月二二日 二四頭 三七二、九六〇円

三月二四日 二一頭 三三八、五二〇円

合計 六九頭 一、一〇二、八六〇円

で、一頭当り一五、九八三円であるから、単純に計算すると一頭当り七、九八三円の利益を生ずることになる。(符号8-4、別添六)

そこで年間における飼料代六、一三五、〇〇〇円を右一頭当りの利益七、九八三円で除すると約七六八・五となるから、年間で約七六八頭の仔豚を親豚に育て上げ売却してやっと飼料代がまかない得るわけである。豚の成育期間は一〇〇日ないし一五〇日とされているから、右豚舎においては飼育頭数二一〇頭ないし二五〇頭が飼料代をまかない得る最底線である。

これに人件費・水道光熱費・運搬費等の経費及び事業収益を考慮して採算ベースに乗る経営をするためには、右最底線の二倍の飼育頭数をもって常識と考えられ、最高時約五〇〇頭という中川金次の証言は物的証拠の上からも十分に裏付けられているものであり、その設備が約二、〇〇〇万円位のものであったという同人の証言を否定し、他に有力な証拠があるとして、証言の裏付けのない断片的な手帳の記載によって減価償却前の評価額を推測認定した原判決は、他の証拠との対比を没却して証拠の価値判断を誤り、事実を誤認したものである。

第四点 原判決は、憲法二九条一項に違反するばかりでなく、前記第一点ないし第三点における判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認ならびに法令の違反は破棄しなければ著しく正義に反するものである。

一、一般に直税関係の逋脱事件は、国税査察官の探知するものと、所轄税務署の特別調査班が探知するものとに大別されるが、前者は告発基準に適合する限り、刑事処分とともに重加算税の賦課を含む更正処分がなされるのに対し、後者は比較的大規模の逋脱事件であっても殆ど重加算税の賦課を含む更正処分だけですまされるのである。

一般刑法犯が、捜査事件送致義務の原則により、司法警察員が捜査したすべての事件が検察官に送致又は送付され、検察官が広い視野に立って権衡を失わないように事件の処理をされるのに比べると不公平の感を拭い切れない。

さらに逋脱事件調査の端緒の多くが、資産の備蓄による預金等の発見によるものであることに鑑みると、脱税による留保金を濫費して資産の備蓄のないようなものは、如何に脱税手段が悪質であり脱税額が多額であっても逋脱事件調査の対象には浮かび上がって来ないわけであり、たとえ浮かび上がって来てもかかる担税能力のない者に調査の人手をかけるようなことはなされない。

この点において、刑法犯における取込詐欺などの財産犯では弁償能力のないものが主として検挙され、刑事訴追を受けるのと比べると割り切れないものが感じられるのである。

二、つぎに、現在の日本国社会において中小企業の占める地位の重要性について、再考察の必要があると考える。中小企業の経営者の昼夜を忘れた献身的な企業努力と、そこに培われた堅実で根強い経済観念と、穏健中正な思想がこれに従事する従業員にも反映し、これらが国家の治安や思想の安定層を形成していることは否めない事実である。

国家の施策として大企業の保護育成も大切であるが、中小企業を放置しておいてよいわけではない。ところが査察事件といえば、中小企業のみが対象であり、大企業の逋脱事件は比較にならぬくらい大規模のものでも刑事手続に至らないのが現状である。

中小企業は放置されるどころかきびしい取扱いを受けることになるのである。

直税の刑事事件の処罰については、多角的な考察のもとに行われなければならない所以は右に述べたとおりである。

新日本製鉄が八〇億円を超え、三菱商事が一〇〇億円を超える更正処分を受け、多額の重加算税を賦課されながらも刑事処分がなされないことについてはそれ相当の理由があり、課税当局の良識と考えてよいのであろう。他面、刑事事件については疑わしきは取る(課税し、徴収する)のではなく、疑わしきは罰せずの基本原則により被告人の保護について十分な配慮がなされなくては、法の正義と公平は実現されないものと考えられるのである。

三、翻って本件についてみるに、原判決は第一点で述べたとおり、苛酷な法律解釈によって評価増を全額否認されるのは已むを得ないとなし、昭和四〇年度の所得が欠損五四、三九〇、六八一円で、昭和四一年度の所得が利益五九、九二六、〇二〇円という不均衡を被告人に押しつけて、右昭和四一年度を掬い上げて刑事処分に付し、第二点で述べたとおり、不適格な試料によって推定計算をなし、かつ仮説の検定を行わないで第一審判決がなした経費の認定から四〇〇万円もの大幅の削減をなし、第三点で述べたとおり、立証責任の法則及び経験法則を無視して現場責任者の明確な証言を排斥して断片的な手帳の記載によって著しく低い固定資産の減価償却前の評価額を認定したものであって、いずれも判決に影響を及ばすべき重大な事実の誤認ないしは法令の違反があるものというべく、被告人の本件逋脱手段は悪質であることを考慮においても、前二項で述べた事情をも併せて鑑みると、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわねばならない。

原判決の事実認定の傾向には、当弁護人が過去において扱った約五〇件の直税に関する刑事事件の中で最も課税庁サイドの傾向が窮われ、著しく公平を損うものと考えるので、あえて上告審たる貴裁判所の御判断を仰ぐことに踏切った次第である。

加うるに原判決の認定は、秘匿所得額を実際の秘匿所得額の二倍を上廻る多額に認定して、その結果被告人に対し不当過大な納税義務を課し、被告人の財産権を侵害するものであるから、憲法二九条一項に違反するものである。

以上の各理由により原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差戻し、さらに審理を尽くさせるべきが相当と思料し本件上告に及んだ次第である。

以上

(添付書類省略)

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